前回から始まった特集「感覚を継ぐ」。

福岡で三代続く老舗和菓子屋「鈴懸」の社長、中岡生公さんにお話を伺った。

鈴懸は中岡社長の「感覚」の共有で作られていく。

自然におかれた季節の花やアートの数々、バックヤードまでも美しく整えられた空間から、鈴懸に関わる全ての人が各々に感じとっていくという鈴懸で継がれる「感覚」を紐解いていきたい。

中岡
うちなんかお菓子のレシピっていうのは平気で普通にすぐ変わっていきますから。お客様が気がついているか、気がついていないかは別ですけどね。

例えば、ちょっと面白い砂糖が出てきました。で、美味しかったら、すぐ使ってみよう、とね。

 

首藤
ある意味「超感覚」というか・・・理屈が先には立たないというのが鈴懸さん。それもあって、私も心地いいのかな。私もある意味「感覚」の人なので。

もちろん制作チーム、デザインだったりとか写真だったりとか、一緒にやっているチームも長いんですけど、みんなやっぱり「超感覚人間」なんですよね。

 

だから、「合う!」とか「これ、嫌い!」とか、「これ、いいね!」っていうのが、言葉を重ねなくても感覚でわかるところがあるので。

 

 

鈴懸の工房には新人職人から、上は先先代の時から菓子作りに携わる御年75歳、職人歴60年にもなろうという大ベテランもいる。

 

縦社会の厳しい、厳しい、ピンと張り詰めた空気の漂う場所かと思いきや、和気藹々とどの世代も臆することなく生き生きと菓子作りを行っていた。

 

大粒の苺を餡と求肥でテンポよく次々と包み込む職人。聞けば、まだ20代半ばという。職人長が「うちのエースなんですよ」と優しい眼差しで煽てる。

 

それでも作業の手を止めることのない若き職人の照れた笑顔が印象的だった。

 

このとても居心地の良い空間はどのようにして作られたのだろう。

 

 

首藤
カルチャーだと思います。「心地悪いよね」っていうのはやめる、続けない、とか、「いいよね」っていうのはみんなで良いっていうのが広がっていくというか・・・


「こうしなきゃいけない」とかっていうことは、見たことないし、聞いたこともない。

 

宮瀬
職人さんたちとの意見交換も、素敵な社員食堂もありましたが、そういったところでもされるんですか?

 

中岡
普通にどこででもやりますよ。立ち話でもやってます。

 

たとえば、先程の新しい砂糖の話でも、必ずしも職人長が提案するわけではないんですか?

 

中岡
いや全然、そんなことない、そんなことないです。

 

宮瀬
じゃあ、何か材料で良いものがあれば、みんなから社長の元に話が上がってくることもあります?

 

首藤
当然社長に「こんなのがありますけど?」っていうのは必ずあると思うんです。「お!良いんやない?」とか「これはちょっと違うかな」っていうのがあって、(職人たちも)「じゃあ、なんで違うんだろう、なんで良いんだろう」っていうのは、細かくは感じ取ろうとはされていると思うんですよね。

 

宮瀬
それだけ、自分の意見が反映される機会があると、新しい良い食材を見つけたくなっちゃいますね!

 

中岡
だから、みんな勝手にいろんな開発やっていたりしますよ。

 

鈴懸には、古くから大切に受け継がれている無数の菓子型がある。

 

上質な和三盆糖で作るお干菓子を型どるのにも菓子型を使う。熟練された職人の力加減とその日の湿度によって水分量を調整していくとても繊細な作業だ。

 

 

鈴懸には職人長(写真右)すら使ったことのない菓子型も含め、何百、何千と倉庫に眠っているという。

 

今回工房を案内してくれた副職人長(写真左)も菓子型を前に目を輝かせていた。

 

左)副職人長 岩本成将さん/右)職人長 宮瀬茉祐子さん

 

「この木型は今使っていないんですけど、後々使ってみたいなって。夢ですね・・・」

 

先代、先先代の頃に使われていた菓子型が今の職人たちの手で、再び蘇る日が来るかもしれない。

 

 

ご自身の中でいろいろ判断する時に「これはいいな」っていうのが、ある意味確信めいておっしゃるようになられたのは昔からなんですか、それとも、試行錯誤があってからなのか?

 

中岡
「いいね」っていう感覚は意外と変わってないかもしれないですね。

途中から確立したというよりは、そこはあんまり変わってないかもしれない。

「これはいい、こういうのは良いよな」って判断するようになったのはのは売ることに携わるようになってからかな。

 

宮瀬
お菓子以外では、人生で「これは良いな」とか感動するポイントはどういうところにあったんでしょう?

 

中岡
どういうところなんだろう?あらためて聞かれるとどうだろう。

 

首藤
なんでもですよね。美術品だからとじゃなくて、マッチ一つでも素敵なマッチだったら「見て!首藤、これ、かっこよくない?」って。

 

中岡
物好きなんですよ。

 

首藤
紙一枚でもね、「これなんていう紙なんだろう」って。

(中岡さんは)好きなものに対しての熱意がとてもあります。

 

社長の「いいね」というものの根底にある感覚とは?

 

首藤
「好き」・・・ですね。

 

すごく自然体、作為的なものでなくて自然から生まれた「この影が美しい」とか、「この光の当り方きれいだね」もあるし、触り心地だったりとか・・・好きだなっていうときはすごく反応されるように感じます。

 

宮瀬
周りも分かりやすいですね?社長にすごく響いているかどうか。

 

中岡
興味ない時はもう全然です。

 

何かお好きなものを思い浮かべながらお話されていたのだろうか、目を輝かせながら、少しいたずらにそう答えて下さった。  

 

 

中岡社長は、提案を否定することではなく、自然に感覚を共有することで鈴懸らしさを作り上げていく。

 

そして、鈴懸に関わる人は、それぞれが自由な発想を持ちつつも、ここで共有される「感覚」に自ら合わせていく。
それもまた培われた「感覚」で。

 

「超感覚人間」たちのなせる技で作られた鈴懸。

 

新しいコト・モノを取り入れるときも、鈴懸らしさをつくる「感覚の共有」はぶれることはない。

 

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——   ある意味「超感覚」というか・・・理屈が先には立たない  ——