作りたてのお菓子がショーケースに陳列するさま、必要なもの以外全て削ぎ落とされた洗練された空間に、通りかかるとついつい目を引かれてしまう。

 

この季節は、特に福岡の特産でもある苺「あまおう」を使った苺大福を求めるお客さんが多いように思う。 

 

 

赤くみずみずしい大粒の苺がそのままに包まれた春の訪れを感じさせる苺大福。薄い儚げなピンク色に染まった桜餅も、麗かな春の陽光に映える。 

 

 

想像しただけでも、穏やかな春風がふわりと包み込んでくれそうだ。 

 

 

福岡県福岡市にある3代続く和菓子店、「鈴懸」。福岡というと決して菓子処ではないが、名だたる名店が出店する東京・新宿伊勢丹の一角にも大きなスペースに凛とした佇まいで店を構える老舗だ。卓越した技能者として「現代の名工」に選ばれた、初代中岡三郎氏の技を今に受け継ぐ。

 

今回は、この代々受け継がれてきた和菓子店が人々を魅了し続ける理由を探しに、桜満開の福岡を訪れた。 

 


 

宮瀬
今回は「継ぐ」ということばをテーマにしています。

社長も3代目でいらっしゃいますが、伝統だったり、いろんなものを継がれてきたと思うのですが、この「伝統」というものをどのように捉えてますか?

社長
和菓子で社長やっているとその質問って非常に多いんですけどね、(笑)

伝統ある業界にいますけど、あくまで私生まれた時からここにいるわけで、要は普段なんですよね、常に。季節になったらいろんな季節のお菓子がでてきて。

人から見ると「伝統の中に、古い世界の中にいますね」って言われますけど、普通です、私の中では。

 

にこやかに自然体で答えてくださるのが、鈴懸3代目の中岡生公社長だ。凛とした立ち居振る舞いは今の鈴懸そのものを象徴しているかのようだ。 

 

 

宮瀬
中岡社長の代になってから特に「鈴懸が変わった!」と感じたのですが、これは新しさも取り入れながらの伝統ということなのでしょうか?
中岡
特に新しいことをやろうとか思ってやったわけじゃないんですけど、いわゆる門前の小僧で子供の時からお菓子をつまんでいて、「このお菓子はこんな風に食べたら美味しいのにな」とか、そんなのがあるんですよね。そしてそれがきっと今の感覚として出てきたんじゃなかろうかと思いますね。
宮瀬
なるほど。幼い頃はどういった環境で育ったんですか?
中岡
家の裏側に工場があって、蒸し上がったもの(お菓子)が冷ますために廊下にずらっと並んでいたりとか、そんな感じでしたよ。
宮瀬
工場に遊びにいって”つまみ食い”できるような・・・ですか?
中岡
焼き立てとかね。

 

羨ましいの感嘆が漏れてしまう。

 

大正12年創業、100周年をまもなく迎えようとしている鈴懸は、福岡市内に本社・工房を構え、福岡に5店舗、東京に2店舗、名古屋に1店舗を展開する。 

 

一番美味しい状態で生菓子を提供するため多店舗展開せず、工房と店舗一体型の熟練された職人の手作りにこだわる。 

 

 

宮瀬
ということは、社長にとって自ずと「作りたて」というものがお菓子だったんですか?
中岡
そうですね。まぁ、当然ね、このお菓子は作りたてが美味しいよなとか。

たとえば、焼き菓子みたいなものは1日くらい経ったほうが馴染んでが美味しいよなとか、そういうのもあるんですよね。

 

宮瀬
じゃあ、お菓子の味に対する感覚はもう英才教育ですね。
首藤
かなりの!(笑)

 

今回、私たちはもう一人、どうしてもお話を伺いたい方がいた。それは鈴懸のHPに掲載されている連載『すずなり』の作者だ。この素晴らしい文章を書いているのが一体誰なのか、どんな人物なのか、尋ねてみたくなったのだ。

 

 

「目は口ほどに物を言う」とはよく聞きますが、手も目とはまた違った言葉をなかなか雄弁に語っているものだと気づかされました。目がその奥にその人の感情を宿すものだとしたら、手にはその人の歴史や、姿勢や気持ちなどが現れているように感じます。目も手も言葉を発するよりも強く、目つき手つきでその人のなりを表しているようです。

- 連載『すずなり』あの手この手 より引用 -

 

 

「わたこと。」は、まだ「ことば」になっていない素敵なものを丁寧に「ことば」にして伝えていくメディア。とても丁寧で心地のいい「ことば」を大切に綴る作者から「ことば」を直接聞きたかった。もしかしたら、私たちの思いに共感してくれるかもしれない。

 

連載『すずなり』の作者、首藤ひとみさん。鈴懸の仕事に20年近く携わられている。 

 

 

中岡
我々の東京の店なんかも、いろんな店もそうなんですけど、裏側に厨房があって前にショーケースがある。大体そんな感じで店が作られていると思うんですけど、それで(作りたてが美味しいから)なんです。

お客様と製造の現場をいかに近くするかっていうね。

 

宮瀬
中岡社長の代で昔ながらの形をリバイバルしたんですね?

 

中岡
最初、私の祖父がやっているんですけど、1軒目はきっとそんなもんだと思うんですよ、裏が工場で前が店で。ようは、よくある普通の菓子屋さんですね。
たぶん、そこに戻したみたいなところがあるんだと思う。意外とそんなもんじゃないですか。

 

宮瀬
この「そんなもんじゃないですか」っていうところが私たちからしたらとても新しくて。

保存がきくとか、大量生産したほうがいいとか世の中の流れがそうなっている中で、本来のものに戻そうっていうのは、私たちからしたらすごいことだなって思います。

 

中岡
一にも二にもやっぱりこうやった方が美味しいっていうね。

 

 

宮瀬
実は先ほど、工場で許可をいただいて、作りたてのものをいただきました。

今までも生菓子として最高のものをいただいていたと思っていたんですけどより・・・

あれを他のお客さんにも食べていただきたいと思いました!

 

中岡
それこそ、大福餅なんか一日したら硬くなるんですどね。朝6時くらいから作ったりしてるんですけど、大体6時くらいから作ると昼すぎ2時3時頃の餅の状態が一番うまいとかね。

なんか、そんなのも勝手に思ったりしてるんですよ。 

 

 

宮瀬
好みが水分量の違いとかで別れてくるわけですね!私はまだまだ”通”ではなかったみたいです(笑)
首藤
本当に美味しいのを(社長は)ご存知だからこそ、お客様にその状態で食べていただきたいっていう思いが強くて。 

 

 

若い職人さんに「(和菓子の)何が魅力なんですか?」って聞いたら、「まぁ、やっぱり季節感ですよね」って。

「なぜ?」って聞いたら「日本人だからですかね」って!

 

中岡
そんな気の利いたことを・・・(笑)

 

宮瀬
本当にどこにいっても季節感が感じられる職場だなと思いました。

 


笑いながら謙遜する中岡社長。

 

本社と併設されている工房では、若手からベテランまで30人の職人たちが早朝から一同に介し、担当別に分かれてお菓子を作る。季節の生菓子に、定番商品の焼き菓子。4月は16種類もの季節のお菓子がこの工房から店舗へと並ぶ。365日休むことなく動き続ける、鈴懸の要だ。

 

 

豆が炊き上がる湯気やほのかに感じる甘く柔らかい香り、黄金色に輝く焼き菓子が鉄板の上で一つ一つ丁寧に焼かれる光景が広がる。 

 

 

 

首藤
でも、それは常に意識されていらっしゃいますね、中岡さんは。

 

宮瀬
どんなところでですか?
首藤
教育されているようでされていないのが鈴懸さんだなって長く見ていて思っていて。

例えば、「社訓がどうだ」とか、「みんなこうだぞー」みたいなことは中岡さんが言われているところを見たことがないんですね。

その分季節のお花を職場に必ず飾っていたりですとか、何か季節を感じられることを自然に・・・絵を飾っていたりだとか、「なんか最近こうだよね」とか会話の一言一言で、鈴懸イズムというか、中岡イズムというか、「あぁこれって素敵、これっていいなぁ」っていうのが自然と入ってくる環境にあるかなと思います。

 

宮瀬
それはもう最高の環境ですね・・・

 

 

それは、どういうことがきっかけだったんですか?先代、先先代から暮らしの中に花があるとか?
中岡
まぁ、確かにそうですね、比較的(花や絵が)ある中にいたんでしょうね。それがいいな、綺麗だなっていう感覚は当然ずっと持っているんですから。

 

宮瀬
中岡社長の美的センスというものを細部に至るまですごく感じていて、

例えば、包装もそうでうし、お店の中の空間もそうですし、ショーケースの中の生菓子が並ぶ余地みたいなところまで、すごく気配りがあるなとも思っているんですけど、その(美的)感覚というものはどうやって生まれたんでしょうか?

 

首藤
いつもそれは話すんですけど、もう単純にいうと「好き」なんですよね。
中岡
そうそうそう、「好き」なんですよ。

 

 

首藤さんは、中岡社長の思いを阿吽の呼吸で代弁できる人だ。20年という月日で築きあげられた信頼の絆から、中岡社長の「感性・感覚」をことばにしていく。

 

 

首藤
なんていうんだろう、もう「感覚」としか言いようがなくて。なんかちょっとズレたり、余計なものがあると気持ち悪いっていう感覚があるじゃないですか。

 

気持ち悪いからやめようとか、やりすぎちゃうと「ちょっと too much だよね」やめようとか、美しいものに対しては美しいっていう感覚があるので、じゃあそれを続けようっていうことを全部に対してしていくと今の形になるというか・・・

 

 

中岡
だから、うちの店作る時に、最初に作るのってショーケースの裏側からなんですよ。

引き出しがどうなってるとか、そっち側から作るんですよ。要はいかに表にものが出てこないようにとかね。

だからお店の裏側、鈴懸の店舗って意外と気持ちいいんですよ。

 

宮瀬
もしかして、裏側の引き出しの中までも綺麗なんですか?

 

中岡
そうです。そこも全部サイズ合わせて・・・裏側から現場で打ち合わせが始まってね。

 

宮瀬
なんで社長はそういうふうに思うようになられたのでしょう?ますます不思議です。

 

中岡
気持ちいいんです(笑)

 

 

首藤
私が見ていて思うのは、中岡さんは中岡さんの感性があられるじゃないですか、だから中岡さんが作ってお店で出すんであればそのままで出せると思うんですよね、中岡さんの感覚で。

   

でも、社員の方であったりとか、アルバイトの方であったりとか、いろんな方が携わっても鈴懸っていう形を作るには、やっぱりその仕組みが大事だと思うんですよね。美しくあるべき仕組みが。

 

なので、裏側から、引き出しから作ることで、誰が見ても、店員の方でも気持ちよく動ける動線を作っていれば、当然所作もきれいになるし、お客様にもストレスを与えない仕組みができる。

 

店舗をやってきてからのことですかね。もともとの中岡さんのセンスがあられるのを形にしていってるということかなぁ。

 

中岡
でも、本当にたいそうなことをやっているつもりはないんですよ、本当に。
宮瀬
感覚を伝えていくっていうことは一番難しいじゃないですか?

それが私たちであれば、「ことば」を使ってかなって思うのですが、でもお聞きしていると言葉ではないもので・・・

 

 

中岡
でも、(私の)感覚をことばにしてくれたりだとか、いろんな店づくりで形にしてくれる人たちもたくさんいたり・・・これ(テーブルの上にあったと花器)なんかもうちのお店にある器を焼いてくれている陶芸家が焼いてくれたもの。

 

 

そう言って、中岡社長は、桜が生けてある花器を誇らしげに見せてくださった。

 

中岡社長の感性で美しいと思うものが社内の至る所に自然と在り、それを社員や鈴懸に関わる全ての人が当たり前のように感じられる空間。

 

そこから連鎖される「感覚」の共有は、鈴懸のお菓子づくりにしっかりと反映されていた。

 

 

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#生菓子 #作りたて #感覚 #好き #教育されているようでされていない #美しくあるべき仕組み

——   鈴懸イズムというか、中岡イズムというか、「あぁこれって素敵、これっていいなぁ」っていうのが自然と入ってくる  ——