Vol.4 鈴懸の「ことば」

中岡社長の感性で美しいと思うものが自然と在り、そこから連鎖される感覚が、いかにして鈴懸で共有されてきたかを紐解いてきた。

 

今回は、隣りで頷きながら、中岡社長の言葉や心情をさらに「ことば」にする首藤ひとみさんに話を伺う。

首藤
第三者の方が分かりやすかったりしますからね。中岡さんは、たくさん良いところがおありなんですけど、なかなかご自身ではおっしゃらないので。

 

と、少し恐縮しながらも、丁寧に話を進めてくださる。首藤さんと鈴懸との最初の出会いは、20年以上も前になるという。

 

首藤さんの仕事は、連載『すずなり』の執筆など鈴懸の書きもの全般にわたるというが、そもそも鈴懸で仕事を始めるきっかけになったのはなんだったのか。

 

 

首藤
元々は先代に取材をさせていただいたことがありました。

 

宮瀬
(首藤さんの)どの作品をみて、仕事を決められたんですか?

 

中岡
作品とかではなく、しゃべっただけだったと思う。

 

宮瀬
これも中岡社長の感覚で決まったんですね!

 

首藤
中岡さんはプロデューサー的能力、コミュニケーション能力がすごく高くていらっしゃって、話していきながら良いものをキャッチしていくというやりとりの中で、ご自身の感性もどんどん広がっていくし、話している私たちも楽しく、いろいろ広がっていく。それでいろんな方が関わってくる気がしますね。

 

これと思われた方をとても大事にされるなというのがあるので、信頼できるんです。

 

 

中岡
僕が何かを生産できるわけではない、創造できるわけではないので、好きなものを形にしてくれる、そういう人って好きなんですよね。

 

我々が言葉にできないところをさらっと自然に言葉にしてくれる、飾りつけるわけではなくてね。それって長い付き合いがあって、深いところで話ができているから、コミュニケーションができているから、そういう言葉になるんだろうなって思いますよね。

 

飾らない言葉作りとか心掛けていることはあるんですか。

 

 

首藤
私は元々ライターではないんですが、ライターの仕事がなぜかとても多くなってしまって。鈴懸さんもそうですし、他のクライアントさんでも、デザインだけでなく、ものを書いてください言われることが多くて、悩んだ時期がありました。

 

きちんと言葉について勉強したわけでもなく、鈴懸になると全国区で皆様の目に触れることも多いので、私が書いていいのかと思ったんです。

 

悩んでいたときに、鈴懸の社員の方から、「首藤さんの書いてくれる言葉って、自然で優しくて、今ここにあるものをそのまま言ってくれるから、それがいいのよね」って言われて。

 

嘘を書いてはいけないので、正しい言葉を選ぼうとその時々で勉強はしますけど、私ができることって嘘をつかないこと、取り繕わないこと。取材して飾りをつけて伝えてしまうとそれは職人長の言葉ではなくなる、私が理解したつもりで書いてしまうとそれはもう中岡さんの考えではなくなってしまうので、ありのままをどう伝えられるかというのをとても気をつけているかもしれないですね。

 

中岡
むしろ削いで書いてるみたいな感じでしょ?

 

首藤
はい。中岡さんの言葉遣いとか、背景とか、言うタイミングは、職人長のそれとは違うはずなので、温度感は気にしてはいます。 

私の言葉で書かないようにしようというのはありますね、私を伝えたいわけではないので。

 

連載『すずなり』において、中岡社長の考え、鈴懸の思いを言葉にするとき、首藤さんは何を大切にしているのだろう。

 

いつもインタビューされる感じなんですか?

 

中岡
普段から普通に話をしていますよ。

 

首藤
話している中で生まれてくることもありますし、特集の記事を書くときはあえてインタビューという形をとらせていただく場合もあります。

 

宮瀬
『すずなり』を読ませていただく中で、これを書いている方はどなたなんだろうとずっと気になっていました。広報の方なのか、お客さまのような立場の人にも感じるし、もしかしたら3人くらい作者がいるのかな、とか。

 

二人は笑みを浮かべている。意図的に作者の視点を変える構想に、私はまんまとはまっているらしい。

 

 

首藤
実はですね、今の特集『すずなり』は、人を立たせている、私っていうのが陰でうろちょろしているというやり方。

その前の『つれづれ歳時記』を書いていたときには、あくまで客観的に、人を登場させませんでした。

 

どうして聞き役を立てるようになったのか。ここにも、首藤さんならではの思惑がある。

 

 

首藤
(関係が)長くなってくると鈴懸の方達って魅力的なんですよね。いろんな方達がとても魅力的なのに、やっぱり表に出てくることがあまりない。

 

人を掘り下げることによって、よりお菓子の魅力が伝わるかなと思ったときに、今お話しているみたいにインタビューしてお話したことをそのままお伝えしたほうが、読んでいるお客さまもそこでおしゃべりに加わっているように感じていただけるのかなと思ったんですよね。

 

そしたら、誰かが聞き役としているんだなっていうのを匂わせないと、それができないなと思って。

 

 

首藤
私が登場する必要はないので、あえて濁して。主役はやっぱり鈴懸の中で働かれていたり、製作者の方達。でも「誰かなんだろうな」っていう人に、読んでるお客様が自分を投影させて、おしゃべりしていただけたらなというのが、ちょっとした狙い、思惑です。

 

宮瀬
こういった連載、メディアを鈴懸のHPの中に入れようと思ったのはなぜですか?

 

中岡
菓子を作っていて、『つれづれ歳時記』の時はお菓子を楽しむ、それで一杯一杯だったのかな。それがだんだんと力が抜けてきて、「菓子がある生活」とかになってきて、もうちょっと余白ができてきて、今の連載『すずなり』に。

そうすると、写真の撮り方とかも変わってきて、全部が変わってきて、それを言葉にするとこうなっていく。

 

今日もいろいろ「ちょっとした変化」というお話が随所に出てきたのですが、メディア、文章、発信のあり方、その時どきによっていろんな変化がおきているんだなって。
首藤
そうですね。常に、というか、決まったものとかはないですね。

 

そのときそのときに良いものが、「ピカっ」て感じなので、昔の『歳時記』の記事を読んでいただけるとわかると思うんですけど、変わりに変わってますよね、写真の撮り方も。

 

宮瀬
文体も変わってますよね?

 

首藤
そうそう、変えました!

 

今の『すずなり』は、話し方も違えば、話している場所も違う。そのトーンを生かしたほうが主役になっていただく方のアイデンティティが出やすいかなと思ったんですよね。

それを懐深く、中岡さんは「いいよ、何でも」って。ある意味、全てにおいてなんですけどね。

 

中岡
今聞いていて思ったけど、うちに関わっているカメラマンだったり、設計の人間だったり、誰にきいてもこれと同じ流れで話をすると思う。

 

首藤
変な話、クライアントさんなんですけど、クライアントという感覚があんまりないというか。

 

–堀   それは社長のお人柄ですか?それとも・・・

 

 

首藤
お人柄もそうですけど、鈴懸というお店作りに対するご信念においても、お菓子と一緒で大切にしているもの、良いものをきちっと形にするという信念が変わらないので、デザインにしても納期があるようでないんですよ。普通、納期があるじゃないですか。

 

中岡
確かに、納期を決めて、追っかけることはないね。お菓子を作る時も全く一緒だし、

もうダメだったらだめ、できた時はやる。

 

 

現在、鈴懸で使われている包装紙も完成まで2年くらいかかったという。

 

首藤
ありがたいと思うのは、制作する人間は、ワクワクする一方でドキドキもするんですけど、いい意味でおよがせてくれる。好きにチャレンジさせてくれるんです。言葉選び一つ、デザイン一つ、正解はないので。

 

首藤さんのことば選びには、温かさを感じる。飾ることなく、一つ一つ真正面から向き合い、丁寧に紡ぎ出された文章は、鈴懸のお菓子と同じだ。

 

ここにもまた、しっかりと鈴懸の「感覚」が共有されているのだ。

 

『すずなり』の最新号を読んでみる。「なんかいいよね」がここでも広がる。

 

 

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——   正しい言葉を選ぼうとその時々で勉強はしますけど、私ができることって嘘をつかないこと、取り繕わないこと   ——