「超感覚人間」たちによって生み出される鈴懸のお菓子。

 

鈴懸らしさをつくる「感覚の共有」が揺るがないのは前回の通りだ。

 

しかし、未知のウイルスを前に誰もが悩まされた1年。今もなお続く混乱の日々に鈴懸はどう対峙してきたのだろうか。

中岡
昨年からこのコロナ禍でよくキーワードとして、「変化、変化」って巷でたくさんでていたんですけど、そう言われると、なんか変化したくないな、とかってね、

 

うちの職人たちと話す機会も去年本当に多くて、「逆に今変えちゃいけないことって何だ?」っていうことを考えようよ、と。

 

変わることは巷でたくさんあって、この話はちょっと今あんまりおもしろくない。あくまで方法論でしかないよね。だから、我々今は何を変えちゃいけないんだって、そこを今やろう。そんなことを去年はよくやっていました。

 

 

2020年、世界的に猛威をふるった新型コロナウイルスは私たちの生活スタイル、働き方、価値観など多岐にわたって影響を与え、変えてきた。日本でも緊急事態宣言の発令により多くのことを自制しなければいけない日々、それは鈴懸にももちろん影響を与えた。

そんな中、中岡社長をはじめ、職人たち、鈴懸に関わる人々は何を思い、考え、先に進んできたのか。

 

 

宮瀬
具体的には何を変えてはいけないと?

 

中岡
ものづくりに、菓子を作ることにおいてですけど、それをずっと懇々とやっていました。

 

鈴懸では、若手ベテランに関わらず職人たち自らが良いと思う材料、試してみたいアイディアがあると、中岡社長の元へ声が届く。

 

うちなんかお菓子のレシピっていうのは平気で普通にすぐ変わっていきますから。お客様が気がついているか、気がついていないかは別ですけどね。

例えば、ちょっと面白い砂糖が出てきました。で、美味しかったら、すぐ使ってみよう、とね。 

- 前回の中岡社長のことば より引用 -

 

 

 

やれニューノーマルだとか、アフターコロナだとか、withコロナだとか・・・

 

中岡
なんかそれがいやでね、聴きざわりがよくないなと思って。

 

逆にやっぱり、我々特に食に携わる者として「美味しいと思うもの」、それを「いかに大切な人と一緒に楽しむか」ということ、これに関しては絶対変わるわけないよなと。だからやっぱり我々、本質的に菓子作りに真摯に向き合うべきだよね、って。

 

それこそ、砂糖一つ、ちゃんと考えようよ、もう一つ美味しい米があったらそっちいこうよって、なんかそんなことをやっていましたね。

 

特にこの1年そういうことが多かったかな。

 

買う側からすると安心に繋がりますよね。確かなものがそこにちゃんとあるっていう。

個の時代とか言われていますけど、例えば、一つのお菓子のまわりにみんながいて、食べて、話す・・・家族間とか地域間とか大切にされていますか?

 

中岡
非常に大事だなと思いますね。それによって、「倍」美味しくなる。要は食を楽しむっていう、美味しいだけじゃなくてもっと4次元的にその時間を楽しむというかね。

 

新しい材料や製法の改良でどんなにレシピは変わろうとも、鈴懸の菓子作りに真摯に向き合う姿と美味しいお菓子を届けるという思いは変わることはない。

 

そして鈴懸の「変わらない」がまた、私たちの美味しいと感じる心も、豊かに思える時間も、変わらずにそこに在り続けさせてくれる。

 

 

効率化、合理化とか、特にこの20年の間ずっと言われてきました。

でも今のお話を伺うと、その対極にあるものが必要だよねということなのでしょうか?

 

中岡
効率化できるところは当然すればいいと思うんですけど、非効率が大事な部分もたくさんあると思うんでね。そこが守るべきもの、きっと伝統の中でも変えちゃいけないところだったり、我々が変えていない部分じゃないのかなと思いますね。

 

非効率を違う言葉で置き換えると?

 

中岡
「手間暇かける」ということじゃないですかね。

 

農家さんから始まって我々が加工するところにおいてまでそうなんでしょうけど、やっぱり手間暇かけるということは、これは非効率とは違う、ちょっと言葉が悪いですかね、

非効率ではなくて・・・

 

宮瀬
「あえて」ですか?

 

中岡
はい。「あえて」

 

首藤
最終的に目指しているものが、たくさん作るとか、たくさん店舗を出すとか、そういうことではなくて。大切にするのは「美味しくあるべき」とか、「このお菓子を食べたお客様がすごく幸せになってもらえるということ」なので、そのためには、手間暇をかけるべきだなとか、効率を求めましょうとかではないのかなと。

 

宮瀬
とにかく「美味しいものを出そう」という気持ちが従業員の皆さんにしっかりと伝わっているから、鈴懸に関わる皆さん全てが思いを同じにされてるんですね。

 

首藤
「とにかく美味しく」とか「優しいお菓子を作ろう」とか、良いものは大切にするというか、時代が変わろうともそこは変われないですよね。

 

「優しい」お菓子とはどういうものですか?

 

 

首藤
お砂糖がたくさん入っていたり加工物が入っていたり、日持ちがするから店舗でも長く売れるし、遠くに送ることもできる。けれどもそれは人にとってあまり良くないんです。生菓子は本日中のお菓子ばかりなんですけど、でもそれが美味しいし、人にとっても優しく感じられるものであれば鈴懸はそれを売ろうということなのかな。 
中岡
僕はあくまで「こっちの方が美味しいよね」、それだけでいいかなと思っています。

 

宮瀬
今、消費者たちは「本物である」ということ、実直さなどを求める傾向があるようですが、鈴懸にもこういったことが求められていると感じますか?

 

首藤
あえて鈴懸では、「本物ですよ」という言い方はしないようにしているんです、実は。

「なんかいいよね」ってお客様に思っていただいて、それが続いてくれたら、それはたぶん本物なのだろうと思うんですよ。

 

「なんかいいよね」「美味しいよね」「気持ちいいよね」っていうのがお客様にも伝わればそれでよくて、

職人さんの中でもその「なんかいいよね」を感じてもらうために、砂糖一つ塩一ついろんなことを試行錯誤はされているんですけど、それが「本物です」とは一言も中岡さんも言わないです。

 

そうとも思ってもいらっしゃらないと思います。

 

首藤さんが中岡社長の胸の内を翻訳されていますね(笑)

 

 

あえて手間暇かけて大切に作られた鈴懸のお菓子。

 

それを手に取り、嗜んで「なんかいいよね」「なんか美味しいよね」と感じる、私たちの感覚が試されているような気がする。

 

鈴懸の「変わらないもの」を大切にしていく先に、私たちが「本物だ」と思う確かなものがあるのだ。

 

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——   「美味しいと思うもの」、それを「いかに大切な人と一緒に楽しむか」ということ、これに関しては絶対変わるわけない   ——