「僕、おじさん、すごく好きなので」
ミネさんがポロリと放った一言に食いつかずにはいられなかった。
ミネさんにとっての「おじさん」とは?そして、そこから見えたミネさんの理想の自分とは?
- 宮瀬
- えっ、なんでですか?
- ミネ
- なんででしょう?「おじさん」って可愛いんですよね。すごい。可愛いおじさんいっぱいいて、本当に本当に(笑)
あと、親父が死んじゃったっていうのも大きいと思うんですけど、おじさんすごい好きで。
こんなねホットパンツとねタンクトップ着てね、冬でもそのカッコしてチャリンコ乗ってるおじさんとかいるんですよ、三崎に(笑)すんごい面白くて、冬とか。そういう人とかね、そのさっきのお魚屋さんのすぐるさんとかも、ほんとガラガラ声で、もうほんとお酒これ以上飲んだら死ぬぞっていうくらい酒飲んでるのに、もう昼間っからずっと飲んでたりとか・・・なんかそういうね、適当なんだけど格好いいおじさんたちがいっぱいこの町にはいるので、そいういう人たちの生き方とか喋ってることとかすごい好きなんですよね・・・
- 宮瀬
- なんか(いろいろ)発見してるんですね?ちょこちょこ、ちょこちょこ。
- ミネ
- してますねー。なんか飲み屋とかでも、よくね・・・言われて。
引っ越してきて間もない時とかやっぱり、なんかこんな感じだったので、「今日どこからきたの?」とかって言われて。「もうこっち住んでるんです」とかって言って。「海とかやるの?」とかって言われて「いや、海はやらないですね」「サーフィンとかは?」「やんないです」とかって。たぶん漁師さんだったんでしょうね、その人はね。「いいか、海は遊ぶとこじゃなくて仕事する場所なんだぞ!」とか言われて(笑)そういう言葉もなんかすげーいいじゃないですか、なんかドキってするっていうか、そうかなるほどって思って。だからここは海岸でもなければ、サップとかサーフィンとかする場所じゃなくて、あくまでも港であると。職場であるっていうこと。そこで遊ぶんじゃねぇと。釣りするならまだしも、そこではしゃぐんじゃねぇみたいなことを(笑)
- 宮瀬
- こっち(漁師たち)は真剣なんだみたいな?
- ミネ
- そうそうそう!そういうのを間接的にこう飲み屋で教わるわけですよ。「あぁ、そうか。そういう町なのか」っていうふうにまた見え方が変わるし。
やっぱそういう大切なことを教えてくれたのはみんなおじさんたちでした。 - 面白いなって思って。
- 宮瀬
- ちょっとずつ、どんなところでも発見とか、何か教わるとか、そういうのをずっと人生でやられていた感じはありますか?
- ミネ
- ありますね。あると思います!
それ、たぶん美容師をやってたからだと思うんですよね、二十歳で美容師になって、技術もなければおしゃべりもできなくて、文字も書いたこともないみたいな、若い子ですよ。でもそういう人たちが毎日不特定多数の大人達を相手にいろんな話をしなきゃいけない、いろんな話を聞かなきゃいけない。
- そういうことをずっとやってたから、だからなんか技術とかっていうのはもちろん先輩に教えてもらったんですけど、世の中のことって僕ほとんどお客さんに教えてもらった気がしてて・・・なんか行くサロン行くサロンでどこでもやっぱりそういう指南してくれる大人達がたくさんいたんですよね。
- だからずっとなんかそういうふうに(自分には)個性がないなってずっと思いながら過ごしていて・・・大人達がもっとこういう見方をするといいとか、世の中こうなってるんだとか、もっと勉強しなさいとか、そういうことを全く見ず知らずのお客さんからあーだこーだ言われるわけですよ、毎日ね。まぁ、そういうのがたぶんなんか自分の基礎としてあった気がするので、それは今でも続いてるんじゃないですかね・・・
- 宮瀬
- そして今や、この場所がそういう(いろいろ教えてくれる)大人たちが集まって・・・
逆に町の子供達がこの場所に来る時に、ミネさんはそういうふうな存在ってことなんじゃないですか?
- ミネ
- あぁ。そう。そういうふうな大人になりたいなって思います、やっぱ。「町の変なお兄さん」になりたいなって、いっつも思って。
なんか今こんなことに悩んでるんだけど何かいい本ない?とかって言われて、「おぉ、よっしゃよっしゃ」みたいな、きたきたーみたいな(笑)
3、4冊選んで「普段貸さないけど、お前なら貸してやるよ!」って言って貸して、「ちゃんと返せよ」って言って、ていうようなことができたりとか・・・
なんかそういうことが地味に後からボディブローのように効いてくるような気がするんですよね、そういうのを体現してきたから。子供とか若い人たちにそういうことをやってあげたいなって思います。
#memo
#おじさん #おじさんって可愛い #町の変なお兄さん
—— 大切なことを教えてくれたのはみんなおじさんたちでした ——
宮瀬の「わたし」をことばにしてみた
ミネさんは自身も編集者であるということもあり、分かりやすく、聞き手の想像が膨らむようなイメージし易い文脈で小気味良く話を展開していく。丁寧なのにカジュアルで自然体で・・・歳も近いのもあるが、私自身もカフェでお茶をしておしゃべりしているようなリラックスした雰囲気でいることに気づいたのは、このインタビューの文字起こしをするときに自分の声を聞いたときだ。
インタビューしていると、初対面でも語り口にその人らしさが現れると私は思っている。言葉の使い方、速度、間合い、目線、表情など「らしさ」が現れるヒントは多岐にわたるのだが、それを見つけるのが私は好きだ。
ミネさんは話の合間に「なんか」ということばを使う。
本来ならこの言葉を切っても意味が伝わるので、編集してもいいかとも思ったがあえて残してみた。
というのも、この「なんか」にミネさんらしさが宿っていると思ったからだ。
気になって辞書であらためて「なんか」を分解してみた。
《副詞「なに」+助詞「か」》
- 1 《「か」は副助詞》はっきりした訳もなく、ある感情が起こるさま。どことなく。なんだか。
つまり、
「なんか」=はっきりした訳もなく、ある感情が起こるさま。
三崎にきて意図しない方向で進み始めた町の小さな出版社は、あるとき「無目的」が目的なんだと気づく。
「僕がたぶん選択したものってほとんどないはずで、でもそれでも形作られちゃうって。」
ミネさん本人も驚いた新しい自分の発見。
このミネさんの「なんか」は、三崎で暮らすミネさんの「今」を体現しているように思えた。
ふと気に留まった、口癖のようなこの言葉に、私は意味を見出した。