前回まとめ。
「サザエさんみたいな世界」が広がる三崎の地に魅了された出版社の編集長ミネさん。
そんなミネさんがどのようにして町に溶け込み、何を感じて暮らしてきたのか。
ミネさん自身も驚いたという「新しい自分」についても語ってくれました。
- 宮瀬
- 一方で、ミネさんの生まれは横浜、都市部で・・・誰もがこういった地(三崎)にいきなり馴染めるわけではないと思うんですけど、ミネさんはどうして馴染めたと思いますか?
- ミネ
- あぁ・・・それは、一つは「場所」を持ったていうことだと思いますね。町になんとなく開かれた場所があるっていうことはすごく大きくて、やっぱり今でこそ知り合いはたくさん増えましたけど、自発的に会いに行ったっていうパターンはほとんどないんですよ。
- 中で仕事をしながら本をたくさん並べてて、なんか得体もしれないことをやっているお兄ちゃんがいるっていう、なんかそれを見つけて地元の人がいっぱいきてくれたり、小学生がきてくれたりして・・・それで自動的に知り合いが増えていくってことがこっちにきて起きたので、何か努力をしたかっていわれるとしてなくて、誰もが入っていいよっていう場所を作ったことが一番の決定打だったと思いますけど。
- 宮瀬
- ということは、意図してそういう場所を作ろうと思ってここに来たわけではないんですね?
- ミネ
- いや、全く思ってないです!!僕は優雅にこの安くて素敵な物件に本をたくさん並べてネットを敷いて優雅に仕事をする。
二階をお昼寝する場所にしてハンモックを置いて楽しくやりたかったんですよ。そしたら、もういろんな人が入ってくるから。どんどんどんどん。「古本屋ですか?」って言われて、「いや、僕出版社です」っていうやりとりをもう何百回もして・・・気付いたら地元の小学生が上にどんどん上がってくるんですよ。で、ハンモックでどったんばったんこう遊ぶわけですよね、どんどん僕の場所がなくなっていって占拠されてって、
でもなんか何となくみんな楽しそうだからもうとりあえずこれでいいやって。
本をずっと読んでる中学生とか、観光客の人とかもいたからお茶くらい出さなきゃと思って、あとで飲食許可をとってカフェにしたんですよね。
- 宮瀬
- じゃあ、本当に意図せず後付けでこの場所が出来上がってきたわけですね?
- ミネ
- ほんと、本当にそうです!ここができた時にもいくつか取材をしていただいたんですけど、やっぱり目的は何ですかって聞かれるわけなんですよ。
でも目的なんてないんですよ・・・「僕の事務所だし」って言ってたんだけど、でもあるとき気づいたのが無目的、「無目的を目的化する」っていうすごく回りくどいことを思いついて・・・
なんかそれね今目的があるところにしかみんな行かないんですよ。
- 宮瀬
- 確かに!時間を削って目的を遂げるためだけにみんなせかせかと動いてって感じがしますよね?
- ミネ
- そうそうそう・・・本を見たいから本屋さんに行く、仕事をしたいからカフェに行くとか、そういうことが多いんですけど、「何の目的のない場所っていうのをなんかあえて作る」っていうのも面白いなっと思って。
それこそ、その公園とかってまさにそういうパブリックスペースってそういうもんだと思うんですけど、まぁそれをそういう雰囲気でなんか作ることはたぶん今面白いし、新しいんじゃないかなと思って。
一生懸命話していたんですけどあまり理解がされなくてですね・・・
だから本当にこうなんか自分が意図を持ってやったっていうことは一つもないです・・・
たぶん上の美容院ぐらいじゃないですかね!
こういうふうにやろう、こういうコンセプトでやろうってことを強く思ったのはたぶん美容院くらいで・・・
今回唯一ミネさんが意図して始めたというその美容室。小上がりを通って軋む床の音を響かせながら2階にある美容室にもお邪魔した。
自然光がたっぷりと差し込む開放的な空間に一台のスタイリングチェア。剥き出しの梁をそのまま残してあり、家屋を支える柱には、以前住んでいたであろう子供たちの成長の記録が刻まれていた。田舎の親戚の家を尋ねたような気分になる。
ミネさんのパートナー、美容師の菅沼さん。気さくに話をしてくれるミネさんとは対照的で、寡黙な職人気質の美容師さんだ。
- 堀
- なぜ花暮美容室を立ち上げようと思われたのですか?
- 菅沼
- ミネくんと出会って、彼は元美容師だし、編集者だし、この先一緒に何かできたら面白いのかなと思っていました。元々東京にいたんですけど、何か違う面白いことがしたいなと思っていて。こういうローカルで発信するのもいいことなんじゃないかと思って。
- 宮瀬
- この場所を見てすぐにやろうと決めたのですか?
- 菅沼
- 沿線もいろいろ探してみたんですけどね、「本と屯」を見てて二階に入ろうと決めました。お客さんも結構来てくれるしいいですよね。
- 宮瀬
- 地元のお客さんだけではなくて?
- 菅沼
- 都内のお客様もいらっしゃいます。
- ミネ
- 地元の高校生とかが来るのがむちゃくちゃ嬉しいですし。先ほどあった魚屋さんのご主人とか商店街の人たちも来ているので、ちょっとだけ奇抜にしたいと思っているんですよ。商店街のおばちゃん達の髪型を。いつも行っている床屋さんとは違う。なんだかキマッてね?みたいな感じに。
- 宮瀬
- 若返りそうですしね。
- ミネ
- みんな接客とかをしているお客さんが多いので、そういう人たちの髪型がカッコよくなってくると結構面白いんじゃないかなって。
- 菅沼
- ここの町、この辺みんなしょっちゅう歩いているんですよ。みんなタレントといえば、タレントなんですよね。せっかくここもできたし、どうせだったら街をお洒落にしたいという僕の気持ちもあるんで。普通じゃなくてちょっと踏み込んだデザインというか。そういうものが提案できたら、すぐに輪が広がっていくんじゃないかなと思って。それによっていいコミュニティが増えたら町がもっともっと楽しくなるんじゃないかなと思って。
町の人たちの髪型を今までと違うお洒落にすることで、菅沼さんは三崎の町を楽しくしようと今も画策中だ。
- 宮瀬
- 逆に人生振り返ってみて、こういうふうに意図せず、無目的でやってきたことってありますか?
- ミネ
- ないですね・・・
- 宮瀬
- じゃ、どちらかというと計画的な方だった?
- ミネ
- そうですね。計画的なほうだし、たぶん転職も3回くらいしてますけど、そういうのもやっぱりなんかキャリアプランっていうんですか?なんかそういうのをたぶん考えて動くタイプだと思うので。
- 宮瀬
- じゃ、今回はいきなり(その道が)開けたわけですね!?
- ミネ
- そうですね。でも、なんかそれすごくいい発見だったのが、なんか自分が意図しなかったことでこういった形が作られるんだっていうことがすごく発見だったんですよ。
たぶんこれ自分で選んでるんじゃなくて、たぶんまわりがなんかミネくんだったらなんかこうだよね・・・とかこういう評価だよね・・・とかいろんな意見がたぶんあって、それがこうまとまった時にまぁ一つの形になる。
だから、僕がたぶん選択したものってほとんどたぶんないはずで、でもそれでも形作られちゃうって、本と屯っぽい・・・とか、なんかいい雰囲気だね・・・とか、なんかそういうものができるんだっていうことにびっくりしたっていうか。
- 宮瀬
- 確かに私もここにきた時に、わぁ、すごくコンセプトがあって、雰囲気作りされてて、古民家をリノベーションしてお洒落だなって、・・・そういうふうに見てしまっていたんですけど、全くそうじゃなかったんですねー(笑)
- ミネ
- 全くそうじゃないですよ。しかも、そうですねー、古民家リノベーションっていう言葉が本当に合っているのかも分からないし、たぶん、本当に真面目にリノベーションしてる人からするとたぶんこれは何も手をつけていないっていうと思うんですよ(笑)
なんかね・・・そういう、そうだなー
でもやっぱ、その米山船具店っていう船具店ですけど、
たぶん米山さんがずっとこう守ってきた雰囲気みたいなのがたぶんあるはずで、そこを壊さないようにしようっていうのがまぁ最初に思いましたし・・・
まぁ向かいの書店さんからもよく言われたのが、ここの小上がりの縁ところで米山さんがいっつも外見ながらずっとタバコを吸ってるみたいな・・・商売もしないで(笑)っていうことを聞いた時に、あぁなんかここの小上がりの部分とかはもう絶対にそのままにしなきゃいけない。外のカッティングシートはもう剥がさない・・・とか、なんかそういうことがなんかできると町の人たちもちょっと安心するっていう。
-
なんかこれをね、カッティングシート剥がして、中を真っ白けっけにしてお洒落にしたら、やっぱりもう米山さんが本当に死んじゃったっていうようなね、イメージになると思うんですけど、シャッター開いてて、カッティングシートついてて、誰か人がいれば、なんか米山さんがいた時の記憶がやっぱちょっとあるはずなんですよね。
そういうのはちゃんと残したいっていうか、あの、なんていうんですかねーそういうの・・・溶け合うっていうか、壊さないようにしようっていうのはすごく思っていました。ここにきた時に。
#memo
#場所をもつ #無目的を目的化 #自分が意図しなかったこと
—— 僕がたぶん選択したものってほとんどたぶんないはずで、でもそれでも形作られちゃう ——